こんにちは、もやしししゃもです。⛏
今回は、ビットコインへのよくある批判の1つであるマイニングプールの集中化によるリスクについて考えていきます。
ビットコインは「分散」「非中央集権」とうたってはいるものの、マイニングの内訳を見ると「結局中央集権じゃないか」と言われるでしょう。僕もビットコインを知り立ての時期、マイニングプールの集権性について疑問に思っていましたし、ビットコインのリスクの1つとして理解を深めることは重要です。
久しぶりに割合を見ましたが、1位のFoundry USAが33.7%は結構大きいですね。
マイニングプールについて考える上で、参考事例として2014年にハッシュパワーが50%を超えたとされるGHash.IOがどうなったかの歴史を振り返ります。そして、51%攻撃でできることをおさらいし、マイニングプールのハッシュパワーが50%を超えたらどうなるか考察します。51%攻撃が起こるシナリオについても考えてみます。
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50%を超えたGHash.ioの歴史の振り返り🏭
GHash.IO(ジーハッシュ)というマイニングプールを知っている人は少ないかと思います。僕自身2017年末参入組ですが、本記事でマイニングプールについて調査するまでGHashの存在は知りませんでした。
しかしながら、GHashは2013年7月に登場したマイニングプールであり、たった1年後の2014年6月にハッシュパワー51%に達してビットコインコミュニティを騒がせ、2016年10月には閉鎖しました。短期間ですが、GHashは歴史上インパクトの大きいマイニングプールだったことが伺えます。
下記にGHash.IOの歴史を時系列でまとめます。
2013年7月:マイニングプールGHash.IO設立
2013年10月:GHashがギャンブルサイトで二重支払いを活用したハックをした疑い
0fee txでベット
賭けに勝ったらtx承認
賭けに負けたら二重支払いtxして承認除外(ギャンブルサイトが0承認処理していた?)
2014年1月:ハッシュパワーの51%に近づく、プールへの新規受け入れを一時停止
2014年4月:マルチプールリリース、収益性の高いコインに変更可能
2014年6月:51%に到達して12時間維持
2014年7月:GHashが自主的に39.99%を超えないことを約束
他のマイニングプールにも39.99%を超えないように依頼
2016年10月:GHash.IO閉鎖
GHashは手数料0%の料金体系だったみたいで、おそらく稼ぎが良かったため多くのマイナーから選ばれたのだと思います。
GHash側もおそらく経済合理性に基づいて行動しており、51%を超えないように色々と工夫しました。一回目は新規受け入れ一時停止、二回目は39.99%を超えないという約束です。自主規制的な取り組みで若干腑に落ちませんが、51%に近づくことでBTC価格も大幅下落し、マイニング事業を長期的にできるようにするため抑制したのかもしれません。
一方で、ギャンブルサイトでハックに取り組んでいたという過去もあり、一部のビットコインコミュニティからGHashは怪しいマイニングプールだと見られていたと思います。過去の怪しさもあり、実際にGHashが51%攻撃を活用するのではないかという懸念が強まったのかもしれません。
また、採掘ブロック数を見るに、2014年1月と2014年6月の2度ピークが来ています。1ブロックあたり10分、1ヵ月を30日とすると、1ヵ月のブロック総数は4,320ブロックです。2014年6月には1,874ブロック採掘していたので、1ヵ月平均で43.3%のブロックを生成していたことがわかります。高めのレートをキープしていたことが伺えます。
その後、どんどんハッシュパワーは衰退していきました。次はGHash.IO事件で当時の人達はどんなことをしていたかを推測します
GHash参考資料
GHash.IO事件当時の人々の行動の推測🧐
当時の実際の状況はわかりませんが、Twitter、記事、SNSなどを見ながら当時の人々の考えや行動を推測してまとめます。
Twitterで「GHash until:2014-6-20」のように期間指定検索すると当時の様子が少しわかります。また「GHash until:2014-8-1 lang:ja」のように言語指定することで、当時GHashに興味を持っていた日本人の様子も見ることができます。
GHash.IO
マイナー新規受け入れの一時停止
長期的な利益を考えた結果39.99%を超えないように約束
GHash利用のマイナー1
51%攻撃により収益が落ちるのを恐れ別のマイニングプールに切り替える
他プールの割合を上げてGHashの割合を下げる
GHash利用のマイナー2
GHashは収益性が高いため継続利用
どうせ他のマイナーが移動するだろう
GHash利用のマイナー3
PoWはリスクだと思いBTCとマイニングマシンを売却
コミュニティ1
マイニングプールや51%攻撃への対策について議論
Avalanche CEOのEminさんも提案していました
コミュニティ2
ビットコインに失望してBTCを売る
ビットコインコア開発者Peter Toddは50%の保有BTCを売りました。彼は元々1つのマイニングプールが50%を超えたら50%売ることを決めていたようです。ビットコインの将来を少し不安に思いつつ、対策について考えていました
50%を超えてくると、マイニングプールの参加者であるマイナーが嫌がって別のマイニングプールに移動するのではないかという考えがあります。確かに、マシンを持っているのはマイナー自身であり、スイッチをオフにできますしプール先の変更も可能なのでプールの切り替えは一定数あると思います(マイナー1)。
一方で、マイニングプールの手数料を考えた結果GHashに残る人たちもいると思います(マイナー2)。GHashのレートはすぐに0にならず、高めのレートを維持していたのもマイナー2がいたからだと思います。マイナー2も、コミュニティがBTCを売り出したり、GHashが実際に51%攻撃をし始めたら別のプールに移動する可能性もあります。
コミュニティは色々対策について考えたり、BTCを売ってGHash.IOやマイナーにプレッシャーを与えることはできますが、正直できることは少なそうです。開発者としても新しいルールをビットコインに入れると、エコシステムへの新たなリスクが生じます。できることとすれば、マイニングを開始して別のプールに応戦するくらいでしょうか。
当時僕がBTCを持っていたら、狼狽して一部売ってそうです。。w
まぁ色々ありましたが、結果的にGHashの割合が50%を超える時間は12時間程度で終了し、マイニングプールの割合は健全化していきました。でも、一度起こったことは二度起こってもおかしくないので、51%攻撃やマイニングプールについて考えていきます。
51%攻撃でできることとできないこと🙀
GHashというマイニングプールの歴史を振り返りました。次は、そもそも51%攻撃はどのようなリスクがあるのかを把握しましょう。
51%攻撃で「できること」と「できないこと」の内容は、ビットコイナー反省会の説明がとてもわかりやすいです。
要約すると下記のようになります。
51%攻撃とは
任意ブロックで分岐して、最長チェーン1よりも長いチェーン2をこっそり育てて公開し、チェーン2を正統なチェーンとさせる
51%攻撃でできること
チェーン1のマイナー報酬を無しにして、分岐以降のマイナー報酬を獲得
チェーン1で取引所に送金(偽の送金になる)して売却、チェーン2では未送金とすることでBTCを保有したままお金を稼ぐ
51%攻撃でできないこと
「任意ブロックで分岐」以前のブロック内容の更新はできない
やる場合はさらに昔のブロックから分岐すればいいが、非現実的
他人のコインを盗むことはできない
ネットワークのルール改変はできない
各ノードがルール検証をしている
51%攻撃できる力を持ったからといって、ビットコインネットワークの完全なる支配者になれるわけではありません。51%攻撃で得られるものは下記の3つくらいです。
数ブロック分のマイナー報酬
二重支払いによるBTC売却益
数ブロック分の無効化による他マイナーやユーザーへの損害
51%攻撃の効用を知ったうえで、マイニングプールが50%を超えたらどうなるかを考えてみます。
マイニングプールのハッシュパワーが50%を超えたらどうなる?🤔
マイニングプールのシェアが50%を超えた場合、下記のような状況になると考えられます。
マイニングプールによる自主規制🤡
個別マイナーのプールの切り替え🤑
51%攻撃をしようとしたらバレる問題🤫
ハッシュパワー50%を超え続ける維持費用の問題💸
結果として51%攻撃は起きにくく、ハッシュパワーは分解されると個人的に思います。
マイニングプールによる自主規制🤡
51%攻撃で得られるリターンは正直少ないです。マイニングプールは企業なので、ビットコインネットワークの信頼損失は長期的な事業運営において死活問題です。
数ブロック分のマイナー報酬
二重支払いによるBTC売却益
数ブロック分の無効化による他マイナーやユーザーへの損害
GHash.IOと同じですが、マイニングプール側が何らかの対応をするかもしれません。新規受け入れ一時停止、40%を超えないよう約束、プール自体の分割、手数料の一時的な引き上げなどできることはあるかもしれません。
ただ、ビットコインに精通している方にとって、マイニングプールの自主規制は気持ち悪いでしょう。なぜなら、たった1つのマイニングプールの運営者が、経済合理的に行動することを信じる必要があるからです。
奇跡的にGHashの時は問題が起きずに済みましたが、悪意を持ってマイニングプールを運営する人もいるかもしれません。
個別マイナーのプールの切り替え🤑
マイニングプールが「51%とか関係ない、たくさんマイニングするぞ!」と言ったとしても、内部リソースにあたる個別マイナーがマイニングマシンを持っているため、計算リソースの使い道は個別マイナーが決定できます。
ASICやマイニングマシンは高い投資商品ですし、無駄にはしたくないでしょう。もし51%以上を維持したらビットコインネットワークから人が離れて、ASICや保有BTCがゴミと化します。ゴミになるくらいなら、他のプールへの切り替えも検討するでしょう。
また、他マイニングプールにとっては個別マイナーシェアが獲得できる数少ないチャンスです。キャンペーンなどでマイナーを呼び込むプールも出てくるかもしれません。マイニングプールごとの差は手数料や支払期間などの数値、サイトの使いやすさくらいで、特定の競合へのアプローチもしやすいかと思います。
51%攻撃をしようとしたらバレる問題🤫
51%攻撃するにはどこかでチェーン分岐をする必要があります。その際、エクスプローラーなどで突然50%を占めていたマイニングプールが姿を消すため、分岐チェーンを掘っているなというのがバレてしまいます。
51%攻撃をしようとしているとすると、リソース源である個別マイナーは気が気でないため、別プールへの移動が加速するとと思われます。結果的に、分岐チェーンを掘っている間に計算リソースが抜け落ち、51%攻撃が無駄になってしまいます。
上記のように、せっかく企んだ51%攻撃も無駄になってしまうリスクがマイニングプールにはあるため、51%攻撃はそもそも起こりにくいように思います。
ハッシュパワー50%を超え続ける維持費用の問題💸
マイニングプールには、一部をクラウドマイニングという形でプールがマシンを預かっているパターンもあるかもしれません。その場合、ユーザーがサイト上でスイッチをオフにしたとしても、運営側の意図で51%攻撃に向けてマシンが活用される可能性もあります。
しかし、その場合マシンの電気代をマイニングプールが負担する必要があります。
詳細なリサーチはできていませんが、Andreasさんによると6承認のブロックを書き換えるためには、51%の場合7日間も維持させるひつようがあるそうです。
報酬のBTCの価格も落ちるし、マシンを抱えていれば継続的に莫大な電気代もかかるし、顧客からの信頼も失うし、51%攻撃のリターンもしょぼいため、マイニングプールが営利企業であれば51%攻撃は割に合わないかと思います。
逆に、トークン自体を預け、維持費用もそこまでかからないPoSにおけるステーキングプールなどは、プール運営側が悪いことを考えやすく、リスクが比較的高いのではないか?と書きながら少し思いました。スラッシングなど色々対応があるかと思いますが。
51%攻撃が起こり得るシナリオ📚
マイニングプール単体では51%攻撃を行おうとすると、個別マイナーが移動したり、費用が高くリターンが少なかったりするため、個人的には起きにくいのではないかと思いました。
一方で、51%攻撃が起きそうなシナリオについて幅広く考えてみます。
マイニングプールの合併🤝
単体で51%攻撃のリスクがなくても、ある日突然30%と30%の2つのマイニングプールが手を組み51%攻撃をけしかけるかもしれません。
しかしながら、共謀したら動きがエクスプローラーなどでバレて個別マイナーが攻撃中に抜けてしまいます。また、FTX事件におけるCZのようにTwitterなどで「あのマイニングプール運営は悪意を持っている」とメッセージのスクショを載せることで、共謀の話を持ち掛けたマイニングプールを潰すことによりユーザーシェアを獲得できます。
他のマイニングプールが諦める🥴
例えば1つのマイニングプールが51%を越え、他のマイニングプールが「ビットコイン終わった」と思ってマイニングプールの一時停止や、プールの解散などするかもしれません。BTC価格下落により収益が落ちる可能性もあるし、51%攻撃によりマイニングへの取り組みが水の泡になったら大損害です。
正直、このシナリオの場合どう解決されるかはわかりません。マイニングプールが他にいくつかあれば、個別マイナーがそこへ移動する可能性がありますし、ビットコインがオワコンチェーンになって崩壊する可能性もあります。
ただ、諦めるプールがあれば別プールにとっては顧客獲得のチャンスでもあるので、全部が一気に諦めるという可能性は少ないと思います。
政府などリターンを求めない組織による攻撃🏰
マイニングプールは個別マイナーの計算リソースをかき集めてマイニングしていますが、マイニングプール以外に51%を取り得る組織を考えてみます。
例えば、現在流通している貨幣発行権を持っているアメリカ、中国などの政府が考えられます。若い芽は早めに摘んでおこうという感じです。他にも、テロ的な思想を持っている組織や国が、ビットコイン利用者や利用国に被害を与えるため51%攻撃を狙うかもしれません。
上記のような組織の大変なところは、味方を作ることが難しいです。マイニングプールに賄賂を渡しても中身の個別マイナーが移動するだけですし、「一緒にビットコインを潰そう!」と仲間を募ってもメリットが正直ないのでマイナーは振り向きません。したがって、基本的にマイニングマシンの調達から施設の準備、マシンの稼働まで一通り自前で用意する必要があります。
つまり、リターンを求めない組織で51%攻撃を目指せるのは、アメリカや中国など資産や資源が大量にある一部の政府に限られるかと思います。
まず、効率的なマシンは調べたところ「Bitmain Antminer KA3 (166Th)」であり166Th/sで価格は$1万(130万円)くらいです。現在のハッシュレートは311,254 PH/sであり、協力者がいないため51%攻撃するには同じハッシュレートが必要です。約187万台のASICが必要であり、2兆4千億円が必要です。
「PoW 51% Attack Cost」によると2023年1月29日現在、1時間の攻撃コストは$988,623(約1億2千万円)です。6承認で7日維持が必要だとすると、201億円かかります。
あとは施設費用や土地、色々と資金と労力が必要な一大事業となります。国家予算を考えれば、できなくもなさそうですが、国であれば他に予算出すところがあるだろと怒られそうです。さらに、51%攻撃してもビットコインが続く可能性があります。つまり、いつまで維持したらいいかがわかりません。
しかも、リターンを求めないとはいえ、そこに残ったのは大量の計算機と施設だけです。また、ASICを100万台以上も大量買い占めするにはマイニングマシン開発会社と協力する必要があります。マシン会社はビットコインが続いてもらわないと事業継続できないため、長期的に考えれば協力しない方がいいでしょう。資金の国外流出もあり得ます。
そして、もしビットコインを潰す計画が失敗した場合、国にも抵抗できたビットコインのポジティブマーケティングになってしまいます。
51%攻撃が起きにくくするための対策🦾
51%攻撃の起こり得るシナリオについて考えました。マイニングプールは中々厳しく、国が乗り出してきたり、異常なシナリオくらいしか思いつきません。
ただ、51%はプロトコル的な対策は設計されていません。というのも、51%攻撃はビットコインのルールに従っているからです。
より、51%攻撃が起きにくくするための対策を考えます。(対策に取り組めるとは限らない)
十分な承認数(6承認)を待つ:51%攻撃の維持コスト増大
マイナーの属性を増やす:例えば電力会社などをステークホルダーに入れる
マイニングプール同士で争わせる
クラウドマイニングを減らす:マシンは個人が持つようにする
要するに、「承認を待つ」と「分散性」が大事です。
まとめ:マイニングプールの集権性はリスクはそこまで大きくないけど…
GHash.IOの歴史から、マイニングプールのリスクや51%攻撃について色々と書きました。マイニングプールの割合は大きいですが、中身の個別マイナーは自由に動けるため、個人的にマイニングプールのリスクはそこまで大きくないんじゃないかと思いました。
51%攻撃はリターンが少ないものの、抵抗する手段はないため「承認数を待つ」と「分散性」で予防していくしかありません。
今後ビットコインが普及していくとすると、想定できていなかった組織が参加してくるかもしれません。そのため、どのようなリスクがあるのかシミュレーションすることは大事です。みなさんもぜひ、51%攻撃に限らずビットコインのリスクについて考えてみてください。
世界中の人に注目されて、リスクが色々ある中で14年続いているのはすごいなと思います。
今週のビットコイン関連ニュース⚡
市場の逆風にもかかわらず、ビットコインマイニングは活況を呈しています
ハッシュレートは依然として増え続けています
マイナーの中身入れ替わっている説はありそう
右翼のアリゾナ上院議員がビットコインを法定通貨として認めるよう推進
アリゾナ州の上院議員は、アリゾナ州でビットコインを法定通貨にする法案を提出
上院議員のトランプの共和党支持者らしいです
アメリカは州単位で色々できて便利だなと思います
転換社債と担保付き融資での1億2,500万ドル(約161億円)の資金調達
機関投資家向けのビットコインマイニングのコロケーションサービス(サーバー設置スペースの貸し借り)の拡大
マイニング周り強化していく感じですね
再生可能エネルギーを活用したリアルなASICマイニングを見ることができます
マイニングは大量のマシンが必要と思われがちですが、別に1つのマシンでも取り組めるためマイクロビジネスとして良いかもしれません
見た目は野生のASICという感じで、今後の可能性が楽しみです
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