あけましておめでとうございます、もやしししゃもです。2023年になりましたね。用事があれば休むこともあるかもしれませんが、今年もRead BTCを書いていきます!🎍
ビットコインはよく法定通貨と比較されることがあり、「デジタル上の自由な貨幣」がテーマになっているように思います。今回は1800年代のドイツの社会学者ゲオルク・ジンメルの「貨幣の哲学」から貨幣がどのようなものかを学びつつ、ビットコインはどのような存在なのかを貨幣の視点から考えてみます。
実際「貨幣の哲学」の本を読んでいないので、二次ソースを介していることはご了承ください。主に下記の記事を参考にしていますが、一応色々なソースも漁っています。本は相当分厚そうですが、相当暇があったら読んでみます。。
個人的におもしろかったのは、貨幣が自由をもたらし、人格を除去させたという解釈です。ビットコインでは特にプライバシーを重視していますが、アイデンティティ(人格)との分離は貨幣においてなんとなく重要な気がしていたので腑に落ちました。DIDなどとも関わってくるのかなと思います。
今回の記事は、僕自身もうまくまとまっておらず、ふわっとしているかもしれませんが、「こういう考え方もあるんだなー」という感じで読んでいただければと思います。
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「貨幣の哲学」のざっくり説明
ゲオルク・ジンメルの「貨幣の哲学」には多くの内容が含まれていますが、下記の4点をピックアップして概要を説明します。
価値交換には客観性が必要🛣️
貨幣の形態の変遷🪙
貨幣の2つの特徴🫥
貨幣が自由をもたらした🗽
価値交換には客観性が必要🛣️
ジンメルは「価値」を主体から客体への距離と捉えています。距離が遠ければ遠いほど客体に価値を帯びます。日本語でも「あの商品は高すぎて手が届かない」と距離のニュアンスで捉えられることがありますね。
例えば、日本に住んでいるとキレイな水道水に価値を感じている人は少ないかと思います。それは、少ない対価でいつでも手に入ると思え、主体からの距離が短いからでしょう。一方、砂漠地帯で水筒に入っている水の価値は高いと考えます。化学式としては同じH2Oであっても、砂漠地帯はほとんど雨が降らないため入手が困難であり、主体からの距離が遠いということになります。
そして、人間は価値を交換することで欲しいものを得ます。交換の本質は「等価性」であり、AさんとBさんが相互に等価だと思えるように努めます。等価性を実現するためには客観的な視点が必要であり、人間は客観性を持つ動物とも考えられます。
難しそうな内容ですが、要するに価値交換を行うには「客観性」が必要と言うことです。そしてその客観性は「貨幣」が役割を担います。
貨幣の形態の変遷🪙
実際の貨幣の歴史はもう少し紆余曲折があるかと思いますが、貨幣の形態に注目して変遷を説明します。
貨幣が無い時代、最初は「物々交換」から始まりました。牛と塩、木の実と魚など、物もしくは物のパッケージを交換します。しかし、Aさんが欲しているものと、Aさんが所有しているもの、自分が欲しているものなど交換までの考慮事項が多く大変です。
次に金や銀などの「貴金属貨幣」が始まりました。貴金属は牛や塩と異なり、それ自体のユーティリティがほぼありません。あるとしたら宝飾品や科学技術などでの利用くらいかと思います。しかしながら、貴金属貨幣は金の含有率で嘘があったり、大量に持ち運ぶことが大変だったりといくつかの困難がありました。
そして現在利用されている「紙幣」へと繋がります。紙幣は貴金属よりもさらにユーティリティがありません。紙なので燃やすか水分を拭き取るくらいでしょう。しかしながら、そのもののユーティリティを失うほど貨幣としての利用しやすさが増加しました。
さらに、今やSuica、クレジットカード、銀行、電子決済など「単なるデジタル上の数字」になってしまいました。ほとんど紙幣を持たず、電子決済しかしないという人も増えてきています。紙幣に比べて、デジタル上の数字のユーティリティは皆無です。
ビットコインも「デジタル上の数字」に該当するかと思います。貨幣は「数値」という概念に向けて、牛一頭、金の重さ、1ドル紙幣、1(デジタル数値)、と姿形を変えて来たように思えます。
貨幣の2つの特徴🫥
貨幣は次の2つの特徴があります。
内容から切り離された空虚な道具
抽象化されるほど信頼が重要
貨幣の特徴として「利用価値のなさ」があります。牛や塩、貴金属、紙、デジタル上の数字、と貨幣はどんどん抽象化されました。抽象化されるにつれて、それ自体の利用価値がどんどん削ぎ落とされています。貨幣は「それ自体は中立的で、価値がなく、また個性がない」ということが重要ということになります。利用価値がないからこそ、貨幣としての利用価値があるということです。
利用価値がある存在は、その利用価値に価値が限定されてしまうと僕は考えます。昨今の暗号資産は利用価値、いわゆるユーティリティを増やすことに重きを向いていますが、貨幣を目指すのであれば逆効果に思えます。確かに、投票券や株券でおにぎりを買うのは変な気持ちになります。たいていは貨幣を目指していなさそうなので、ユーティリティを増やすのはいいかもしれません。
そして、抽象化されるほど「信頼」が重要になります。例えば、牛であれば一目瞭然です。貴金属であれば見た目や重さはOKでも、金の含有量などは信頼が必要です。紙幣であれば、発行体である政府や国への信頼が必要であり、仮に偽札であれば刑務所行きという暗黙の了解があります。デジタル上の数字は、開発会社や数字の裏付け資産への信頼が必要となります。
元々交換相手に信頼が必要だったのに対して、貨幣が信頼の役割を吸収しているようにも思えます。ビットコインでは「トラストレス」という言葉もある通り、信頼の観点も重要視しています。
貨幣が自由をもたらした🗽
貨幣は物々交換を円滑にするための手段でしたが、副次的に「自由」を人間にもたらしたとジンメルは解釈しています。
「完全な自由」などなく、これまでの義務が新しい義務に取り替えられるとき、それまでの圧迫が脱落したと感じるときなどに「自由」を感じるという。
どのような自由かというと、一番の根っこは「人格の自由」だと考えられます。「人格」と書くと難しそうですが「あなたが誰であるか」ということであり、自由ということは誰でもいいということになります。しかしながら、貨幣がもたらす自由はポジティブ面とネガティブ面の両方があります。
人格の自由のポジティブ面
貨幣の出現により、交換相手の人格が考慮事項から除外されました。
昔は地域のコミュニティや知り合いかなどを大事にし、よそ者と交換に応じないこともありました。これは交換相手への信頼を重きを置いており、取引が円滑だったからだと考えられます。
現在では、例えば日本において日本円さえあれば、国籍、人種、宗教、性別関係なくスーパーなどで買い物ができます。オンラインで海外の商品を買うことも可能です。商品を購入するとき、その製品を誰が作ったかを気にせず、製品自体の性能などに注目します。
また、仕事においても従来よりは「人格」よりも「その仕事ができるか」という点を重視して雇用できます。これは、成果物に対して人格が分離されることで、分業体制が可能になったことが理由だと考えられます。例えばデータ入力の成果物は、入力者が誰であっても問題ありません。
「人格」を気にせず、目標に向かって円滑な交換が可能になりました。
人格の自由のネガティブ面
価値交換で人格が分離されることにより、交換行為がより人間味のない空虚なものとなりました。
例えば労働に対する賃金です。主観的にかなり頑張ったり、活躍したとしても、対価は時給1,000円などで表現されます。ボーナスなどあるかもしれませんが、労働者である自分が評価として数値に落とし込まれています。雇用関係も貨幣で繋ぎ留められた関係となります。
また、誕生日などで現金を渡すよりかは、何らかの物品をもらった方が気分がいいです。「おめでとう!はい、1万円。」よりは「おめでとう!はい、この前欲しがってたゲーム。」ですね。せめて商品券です。合理的に考えれば、物品に相当する現金をもらえた方が用途が多く良いですが、物品であれば渡し手ならではの気持ちであったり、これまでの関係性が表現されて思い出に残ります。親友からもらった手紙は単なる紙ですが、プライスレスでしょう。直観的に感じる現金への抵抗感は、やはり貨幣は人格を分離している空虚な存在であると感じさせます。
脱線しますが、僕は子供の頃ポケモンをプレイしていて、友達と交換したポケモンを愛情かけて育てたりしていました。物々交換では交換相手の人格が入り込んでいるように感じます。ポケモンはゲーム内通貨で買えず、交換か野生で捕まえるくらいしかないのが面白いですね。一方で、最近は個体値や種族値であったり、ポケモンが数値へと抽象化されて空虚に感じます。
貨幣によって価値交換から人格を分離させることにより、逆に「人格」の価値が高まっているように感じます。このようなネガティブ面はあるものの、ジンメルは貨幣が価値ある存在であると評価しています。
ジンメルの考えは、価値がないから価値がある、人格がないから人格が重要である、という反語っぽくて老子的です。
ビットコインの貨幣性についての考察
ここまで「貨幣の哲学」について記載しました。貨幣は奥が深いですね。物々交換に人格が要素として含まれているのは面白いですし、貨幣が無色透明であることが重要であることも学びになりました。
この「貨幣の哲学」からビットコインに当てはめて、ビットコインの貨幣らしさについて考察します。
法定通貨に比べてビットコインで削除できる要素🌎
法定通貨は牛や塩、貴金属に比べてかなり抽象化されました。ビットコインでは、そこからさらに次の2点で抽象化、無要素化されるように思います。
信頼の最小化によるビットコイン自体への信頼強化
地縁や国境の削除
法定通貨とビットコインの大きな違いは、発行体への信頼でしょう。法定通貨では国や政府への信頼を最大化することにより信頼できるのに対して、ビットコインではノードやマイナーなどへの信頼を最小化することにより信頼できるようにしました。つまり、国家からの分離だけではなく、貨幣において重要な信頼の影響度を小さくしました。
また、ビットコインは地縁要素も削除できます。例えば、一万円札であれば基本的に日本でしか使えません。オンラインであっても、国を跨ぐ場合は為替交換が必要です。地縁的要素が絡んでいると不便です。一方、ビットコインであれば日本にいながらブラジル人と取引できますし、もちろん近くにいる人とも取引できます。
ビットコインで削除できていなさそうな要素💻
貨幣は「内容から切り離された空虚な道具」ですが、完全に空虚な道具にさせることは難しく、どこかでトレードオフが発生します。ビットコインにも残ってしまっている3つの要素について記載します。
インターネット
電力供給
人間
ビットコインを送金するには、必ずインターネットを通じる必要があります。貴金属や紙幣では、インターネットがなくても機能しましたが、ビットコインはインターネットがなければ成り立ちません。国のブロック化などにより、インターネットが国ごとに分かれた場合、VPNなどで乗り越える必要があります。また、交換相手にネットのインフラがなければビットコインを使えません。一方で、Starlinkのような衛星通信によりインターネットのインフラはより頑丈なものになっていくと思います。
インターネットに近いですが、ビットコインは電力供給なしでは成り立ちません。貴金属や紙幣は電力とは無縁でした。例えば災害などで停電になった場合、自家発電などがなければノードやマイニングマシンは停止します。地球全体で大災害が起きたら、電力依存のビットコインは使えません。ビットコインと電力との関係は密接です。詳細は下記記事をご確認ください。
→ビットコインと電気エネルギーとの関係についての考察💡
ビットコインは分散的に成立しているものの、やっぱり「人間」が関わります。法定通貨も人間が関わりますが、貴金属であれば多くの人間は不要であり交換主と交換相手の2人さえいればOKです。ビットコインにおいて、ノード運営、マイナー、開発者はやっぱり人間です。人間が大幅に減ると分散運用が難しくなり使えません。まぁ貨幣は人間としか使えないので、仕方ない気もします。
ビットコインと人格は分離している?🥷
ビットコインは設計からプライバシーに注意している点から、基本的に人格から切り離されています。
例えばビットコインアドレスは脈絡のない文字列ですし、IPアドレスはTorなどにより匿名性を守れます。秘密鍵の所有者については今本当に誰が保有しているかわかりません。また、1つの秘密鍵で複数のアドレス生成も可能です。
しかしながら、アプリケーションレイヤーで個人登録が必要だったり、取引所でKYCが必要だったりで、しばしば人格チェックが行われるようになりました。基本的にAML/CFT対策ですが、他の用途で使われる可能性も0%ではありません。せっかく貨幣によって人格が分離されたのに、人格が混入され得るのは本末転倒な気がします。
改めてDIDであったり、個人情報を細分化して自己管理できる仕組みは大事だなと思います。
これを書いていて思い出したのですが、ジャック・ドーシー率いるSquareのTBDでtbDEXというプライバシーを考慮した法定通貨と暗号資産の取引システムに関する話がありましたね。(今どんな感じか追えていませんが)
tbDEXは、現実世界のアイデンティティを証明するために分散型アイデンティティ(DID)と検証可能な証明情報(VC)を使い、ソーシャルトラストのためのフレームワークを提供することで暗号資産取引の分散型ネットワークを構築する
ジャックはプライバシーを特に気にしていて、以前は気にしすぎではないかと思っていましたが、ようやく自分にも重要性がわかってきた気がします。
「貨幣の哲学」は奥深い🧐
ドイツの社会学者ゲオルク・ジンメルの「貨幣の哲学」からビットコインの貨幣性について考察しました。正直、書きながらモヤモヤして、ふわっとした記事ができてしまいました。w
この記事で言いたいことをピックアップすると、次の3つかなと思います。
貨幣はそれ自体が抽象化されているほど便利
貨幣において信頼が重要で、ビットコインは信頼問題の解決策である
貨幣は人格を自由にさせるので、ビットコインのプライバシー性は重要である
貨幣について考えていると、ビットコインにも削ぎ落とせていない要素があって、ビットコインが未来永劫最善の貨幣とも言えないかもなと思いました。絶対的なものはほぼなく、相対的なものがほとんどであることを痛感します。でもやっぱり、個人的にビットコインはベターでおもしろいです。
ビットコインは、今のインフラ環境だからこそ成り立っていますが、400年前の江戸時代でビットコインは100%成り立ちません。同様に、数百年後は私たちが想像もできないようなインフラ環境ができていて、新たな形態の貨幣も存在するかもしれません。インターネットができたのはたった60年ほど前ですしね。
ビットコインを盲信せず、tbDEXのようにビットコインへの補助案を考えたり、より良い貨幣について考えていくことはビットコインにとっても大事なんだろうなと思います。また、貨幣は手段であり目的ではありません。人格である私たちは、身近な人達を大切にしながら生きていければいいなと思います。
2023年もよろしくお願いします!
もし「貨幣の哲学」に興味を持った方がいれば、色々調べてみてください。
今週のビットコイン関連ニュース⚡
米国の致命的な冬の嵐の中でビットコインのハッシュレートが40%近く低下
ビットコインのハッシュレートが38%急落
米国拠点のマイナーが記録的寒波により一時停止
自然には抗えないですね
この寒波で死者も出ているらしく、無事を祈ります
マイクロストラテジーは初めてビットコインを売却し、その後さらに購入する
マイクロストラテジーは2022年12月22日に初めてビットコイン704BTC売った
2022年12月24日に810BTC購入した
税制上の理由だと考えられる
マイクロストラテジー、ビットコインライトニングの企業ソリューション提供へ
マイクロストラテジーは、これまで培ってきたエンタープライズ向けのWebベースアプリケーションにLN技術を統合し、LNの即時決済・送金機能を簡単に採用できるようにする方針
企業向けLNウォレットの作成機能、内部統制サービス、コンテンツの収益化、ペイウォール(条件付き有料化)、マーケティングソリューションなどがある
ビットコイン及びLN普及に繋がればいいなと思います
Pega Poolはカーボンオフセットでビットコインマイニングを環境に優しいものにすることを目指す
2022年9月の調査によるとマイニングの2/3(62.4%)が化石燃料
2023年開始のPega Poolは再生可能エネルギーを使用するマイナーに報酬を与えます
海外だと環境問題は特にセンシティブなイメージがあるので、このインセンティブにどこまで効果があるか気になりますね
再生可能エネルギー会社とかやる気出しそう
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#30 Hyperbitcoinizationとは?歴史と個人的感想📜
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ポケモンの話のところ、すっと理解できました